−サブリミナル ルービックキューブ−

〜3〜


…眩しかった。
今までずっと暗い場所ばかり見ていたためだろう、光が目にしみた。
しぱしぱしぱ。

あぁ、駅だ。認識する。帰ってきた。
俺は殴られたそのままの位置に立っていた。
階段が俺の前に口を開けている。
夢を見ていた。
まだ後頭部はかすかに痛んだが、手をやってみても腫れてはいなかった。
かなり強く殴られたはずだが、当たり所が奇跡的に良かったのか。
けれど実際俺は今まで夢を見ていたのだ。
当たり所が良かったとは言えないな、と一人笑った。
あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。
そう思い、俺はホームに時計を探した。
しかし。

時計が無い。


駅のホームに時計がないなんて。
自立の精神を養うにしたっていささか厳しすぎる。
俺は仕方なく自分の腕時計を見ようと思い、シャツの袖をまくった。
すこしだけ無理をして2年前に買った銀色の時計。
それには針が欠落していた。
どこに落としてきてしまったのだろう、針なんて。
俺は困り果てて空を仰ぐ。青い空を。
あぁ、青い空。
ということは、まだ夕方にはなっていないはずである。
太陽もまだ真上に――太陽も――

その空はただ明るいだけだった。

太陽はどっちだ?

時間というものがここにはなかった。
まだ夢の中なのだろうか、そろそろいい加減にしてくれ、
ヘイ、ジーザス。

俺はとにかく階段を降りてみることにした。
駅員さーん、時計の設置をお願いします。あと太陽も一緒によろしく。
しかし、階段を降りて俺は途方にくれた。

また駅のホームだった。

階段が俺の前に口を開けている。
俺はどこから「降りて」きた?
背中には何も無い。
I can’t understand.
まったくもってエヴリシングがだ。

また階段を降りる。ホーム。階段。ホーム。階段。ホーム。階段。ホーム。階段。ホーム。

メビウスの輪の中を延々。
まだ夢の中だ。
わかるのに、目の覚まし方がわからない。
早く目を覚ましてくれ俺。もうたくさんた。
俺は出口を探すことを諦めてベンチに座った。
ホームの屋根の隙間から太陽の無い空を見上げる。
そういえばここはどこなのだっけ。
溜息をつく。
俺はなんでこんなところにいるのだっけ。
認識できない。
そのうち俺は自分が誰かも認識できなくなるのだろうか。
もう一度溜息をつく。

その時、突然ループに終結がもたらされた。

音もなく、ホームに緑色の電車が滑り込んできた。
アナウンスもないまま、行き先は空白。何処へ。
俺は一瞬迷う。乗ってもいいのだろうか。
しかし、このままベンチにいてもらちがあかないし、
だいいち、これは夢だ。
もう何処へでも行け。成り行くままに。付き合ってやる。とことん。
どうせ夢だ。オーケィ。
Let it be.
電車の扉をくぐり、乗り込む。
後ろでドアが音もなく閉まる。すーっ。
一瞬別の空気の層へ移動した感覚。密度の問題。

すんっ

to be continued

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