−Blank−



透。大好きだよ透。ずっと一緒にいよう。ずっと。


いつも悲しくなるとあたしは透に寄りかかって、そんなことを言ってみる。

言葉にしないと不安だから。言葉にすれば安心するから。ずっと一緒にいよう。


だけど、ずっと一緒にいるなんてことは無理だと、本当はあたし知っている。


人は、必ず死ぬから。透も、あたしも。どちらが先かはわからないけれど必ず。

でも、どうせ死ぬならあたしが先に死ねれば良いと思う。

透のいない世界なんて。そんな世界なんて…どうなのだろう。透が死んだら、あたしはどうするのだろう。どうなるのだろう。


透が死んだことがないからわからないな、とあたしは思う。


でも。


あたしの心の中にはたくさんの棚があって、その中に色んな物事が絶妙なバランスを保って積み重ねられていて、

当然その棚の中には透のための場所もあって、むしろそれはかなり大きな広さを占めていて、

そこがポッカリと空いてしまったなら棚の中身はものすごい音をたててドンガラガッシャーンと崩れてしまうと思う。

その後あたしはその崩れた棚の整理に追われるのだろうし、やっぱり整理が終わっても大きな空きは残ってしまう。

いささか風通しの良すぎるそこを風が吹き抜けるたび、あたしは寒さに泣くだろう。


嫌だな、とあたしは思う。すごく嫌だ。寒さほど心を悲しくさせるものは無いのだから。


だから、やっぱりあたしは悲しいのだ。透がいなくなったら悲しいのだ。

考えただけで涙が…涙が。

あたしは泣いている自分に気付いた。今あたしは泣いている。

考えただけでこんなに悲しいのだから、現実になってしまったとしたらそれは悲しいなんてもんじゃすまないのだろう。


透。大好きだよ透。ずっと一緒にいよう。ずっと。


それでも、もし。

万が一、透があたしより先に消えてなくなってしまって、心の棚がポッカリを空いてしまったら。

たとえ寒かろうが、その空白をあたしは無理やり埋めたりはしない。

わずかにそこに残された思い出を、綺麗にピカピカに磨いて、

これ以上なくしてしまわないように、きちんとその棚に並べて、最後に花を飾ろう。

赤い、あたたかな色の花が良い。透明な小さい花瓶にさして、そっと棚の上に。


透。大好きだよ透。ずっと一緒にいよう。ずっと。


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