■花■

天は二物を与えずって言うけれど
やっぱり世の中には二物をもらってる人もいるし
僕みたいに何も無い人間もいる
そんなとき
何も無いあなたに会った
あなたは何も無かったけれど
手にとても奇麗な花を握っていて
僕はその花に魅せられて
あなたと歩くことを決めた

月日がたって
花は枯れてしまった
あなたは寂しげな顔で
さよならね
と呟いた
あなたは知っていた
僕が好きなのはあなたではなく花だったことを
だけど
あなたのその顔がとても奇麗で
花より奇麗で
なぜかものすごくあなたが愛しくなって
僕はあなたの手を握った

そして
季節は巡り
木々の葉は散り
雪が草花を覆い
花が新たな蕾をつけて
春が来て
あの日の花が咲いた
だけれどあなたはもう花を摘もうとはしなかった
ただ僕の手を握って
花を見ようともせず
ただ前を見据えて歩いていた
あなたは知っていた
僕が好きなのは花ではなく
何も無いあなたになっていたことを